ツタヤ図書館になる前に ~高梁~

自称「ツタヤ図書館問題研究員」の鉄砲玉とどです。
11/14(土)の“伊丹秘話”の後、伊丹市立中央図書館にお邪魔して毒気を中和したものの、図書館探訪欲は収まらず、以前より気になっていたツタヤ図書館計画のある高梁へ行ってみることにしました。
研究員として現地の事情も知らずに「ツタヤ図書館反対」を言ってもなかなか現実味を帯びないからです。

高梁市の中心駅は伯備線の「備中高梁駅」。岡山駅から特急やくもなら約35分、普通電車なら1時間を切るくらいの距離です。

今の高梁市は、いわゆる平成の大合併で(旧)高梁市を含む1市4町が合併して2004年10月に誕生した人口33,000人弱の町です。江戸時代には備中松山藩の中心地であり、現存天守の残る唯一の山城「備中松山城」や武家屋敷などの文化財が多く残り、新しくなった備中高梁駅の駅舎も城郭をイメージしたものになっています。

高梁中央図書館にこんにちは

今回の訪問先はこちらです。

今の高梁中央図書館は駅前からは700m程離れた、福祉センターや郷土資料館、保育所といった市の施設が並ぶ一角にあります。昭和45年(1970)竣工の鉄筋コンクリート造2階建て720㎡の建物で、1Fには一般書や新聞・雑誌、郷土資料など、2Fには児童書、YA(ヤングアダルト)という構成になっています。館内2Fの様子は公式Webページに写真があります。

中に入るとさすがに築45年という面持ちで、コンクリート打ちっ放しの壁に無粋なスチールラックの書架が並び、閲覧コーナーも手狭といった感じです。ノーマライゼーションには程遠く、今となっては“バリアフル”であり、公共施設としては改善が求められる状況にあることは違いありません。
また、バックヤードが足りないために集団貸出や分館・分室への通函が通路の床に置かれていたり、新聞の当月分は発行社毎に重ねて二つ折りにされたまま積まれているなど、日々の運営に手が回りきらないのだろうなと推測されました。
(新聞のバックナンバーには平置き可能なスライド棚の利用をよく見ます。)
館内には自習室は特になく、1Fの一角にある閲覧コーナーのテーブルや2FのYAのテーブルで地元の学生・生徒等が勉強に励んでいました。

この図書館を紐解けるか?

折角調べたいそのものの図書館に来ているのでレファレンスをお願いしても良かったのですが、他の来館者の方の貸出対応に追われていたり、調べる対象があまりにもアレで気が引け、今回は郷土資料から図書館がどう位置づけられてきたかを自力で調べることにしました。(訪問時は1F・2Fにそれぞれ1名の職員の方で窓口対応されていました。)

郷土資料の棚は13本あり地元のみならず、近隣市町村や県のものなどかなりしっかりそろっていました。棚から見つけ出した資料は以下の通り。

  • 昭和60年(1985)12月 高梁市総合計画
  • 平成2年(1990)12月 高梁市総合計画〔第2次〕
  • 平成13年(2001)3月 第4次高梁広域市町村圏計画
  • 平成15年(2003)9月 高梁地域(高梁市・有漢町・成羽町・川上町・備中町)
    新しいまちの建設計画策定のためのアンケート調査結果報告書
  • 平成17年(2005)4月 (新)高梁市まちづくり計画
  • 平成18年(2006)3月 高梁市総合計画 交流創造都市 たかはし
  • 平成22年(2010)3月 高梁市新総合計画2010-2019 「ひと・まち・自然にやさしい高梁」

なお、後からWebOPACで調べると、平成7年(1995)12月の第3次総合計画は書庫に、平成27年(2015)3月の新総合計画 後期基本計画2015-2019があったことが分かりました。
(レファレンスをお願いしていればね…)

総合計画や関連する資料を順に紐解くと、高梁市においての図書館の位置づけが見えてきました。

隅に追いやられる図書館

昭和60年(1985)に初めて策定された高梁市総合計画。その中に社会教育施設の1つして高梁中央図書館について触れられています。

昭和60年12月 高梁市総合計画 P.148

昭和60年12月
高梁市総合計画
P.148

中央公民館の設置を検討するとともに、地域振興の拠点としての公民館の施設及び図書館などの社会教育施設の整備、充実と利用を促進するための条件整備を進める。

~ 昭和60年12月 高梁市総合計画 ~

 

と公民館の次に取り上げられるに過ぎず、以降、図書館は既にあるからというような体で冷遇されるようになります。

なお、今回は遡って調べていませんが、昭和45年(1970年)の竣工ということは、この時代の日野市立図書館の流れをくんでの開館だったのでしょうか。それにしても開館当時は近代的で質実剛健な施設であったと思われます。

5年後の平成2年(1990)12月に打ち出された高梁市総合計画〔第2次〕には図書館についての言及はなく、平成13年(2001)3月 第4次高梁広域市町村圏計画においては、社会教育施設一覧表の中からも図書館の記述がなくなります。
(おそらくカウントはされているのでしょうが…)

平成13年3月 第4次高梁広域市町村圏計画 P.83

平成13年3月
第4次高梁広域市町村圏計画
P.83

平成13年3月 第4次高梁広域市町村圏計画 P.84

平成13年3月
第4次高梁広域市町村圏計画
P.84

図書館が総合計画のなかで冷遇を受けることになった背景には、1990年に開学した吉備国際大学の誘致にも一因があるのではないかと推測しました。その訳は、ここまでの総合計画の記述に4年制大学の誘致に力を入れていた節があり、市の教育費の予算がそちらに多く回されたのではないかと考えられるからです。(※要調査)

淀みから激流へ、合併に揺れる図書館

第4次総合計画は高梁市単独のものではなく、高梁広域事務組合の発行になっていました。そして、この地域も平成の大合併の大きな流れに加わっていきます。平成15年(2003)9月にまとめられた住民のアンケート調査結果報告書は高梁地域合併協議会によるものでした。
この合併に向かう(旧)高梁市を中心とする1市4町の合併協議会で行われたアンケートで図書館はいきなり激流にさらされることになります。

平成15年(2003)9月 高梁地域(高梁市・有漢町・成羽町・川上町・備中町) 新しいまちの建設計画策定のためのアンケート調査結果報告書 P.52

平成15年(2003)9月 高梁地域(高梁市・有漢町・成羽町・川上町・備中町)
新しいまちの建設計画策定のためのアンケート調査結果報告書
P.52

「悪い(不満)」、または「とても悪い(非常に不満)」と答えた人が合わせて25.8%と、とても良い(非常に満足)」、「良い(満足)」と答えた人をやや上回っています。

~ 高梁地域 新しいまちの建設計画策定のための
アンケート調査結果報告書 ~

本文中にも、「とても良い」「良い」の合計25.5%よりも、「悪い」「とても悪い」の合計25.8%の方が大きいことが上げられていますが、それよりも「とても良い」1.8%に対して、「とても悪い」が7.7%と4倍を超えるのはかなり深刻な結果だったのだと感じます。
このアンケート結果は、築年数を重ねてきた中央図書館を合併を機に建て替えようという方向に大きく舵をきる原動力になったと思われます。

新中央図書館とまちづくり

先のアンケートを踏まえて平成18年(2006)3月 高梁市総合計画で図書館の文字が復活します。

平成18年(2006)3月 高梁市総合計画 交流・創造都市 たかはし P.140

平成18年(2006)3月
高梁市総合計画
交流・創造都市 たかはし
P.140

(3)図書館の建設
本市では、図書館サービスの充実を図り、教育・文化行政を推進するための中核施設として新しい図書館が必要となっており、その実現に向けて取り組んでいます。市民の豊かなライフスタイルを支援していくための拠点である市立中央図書館は、多種多様な市民ニーズに応え、広く市民に利用され親しまれる、21世紀にふさわしい機能を備えたものとする必要があります。

~ 高梁市総合計画 交流・創造都市 たかはし ~

この新生高梁市の総合計画の段階で中央図書館は築34年。市民のなかにも新中央図書館建設への期待が膨らんできていたものと推測されます。

また、これ以降の計画には新中央図書館だけではなく、老朽化した市庁舎、交通の結節点としての備中高梁駅駅舎、駅前バスターミナルの改築が上げられており、駅周辺を中心としたまちづくりのプランが明確に示されるようになっています。

平成22年(2010)3月の新総合計画にも新図書館計画(リンクはpdf)は上げられています。

高梁市新総合計画 2010-2019 P.118

平成22年(2010)3月
高梁市新総合計画 2010-2019
「ひと・まち・自然にやさしい高梁」
P.118

生涯学習の拠点施設として新しい図書館を建設整備します。

~ 高梁市新総合計画 2010-2019 ~

ここまでの総合計画等では、新図書館は「生涯学習の拠点施設」として捉えられていました。

忍び寄る「ツタヤ図書館」

そこから5年後にまとめられた平成27年(2015)3月の新総合計画 後期基本計画2015-2019では、新図書館はこう表現されています。

平成27年(2015)3月 新総合計画 後期基本計画2015-2019 P.100

平成27年(2015)3月
新総合計画 後期基本計画2015-2019
ひと・まち・自然にやさしい高梁
P.100

誰もが気軽に立ち寄り、本に親しむことができるように、駅前複合施設の中へ、生涯学習の拠点施設である新図書館を整備します。

~ 新総合計画 後期基本計画2015-2019 ~

「生涯学習の拠点施設」という表現は残っていますが、相当軟化した印象を受けます…
(駅前複合施設とはバスターミナルとの複合施設しての改築になったための表現です)

最後に最近の朝日新聞の記事をご紹介します。朝日新聞デジタルで2015年11月15日に公開されたツタヤ図書館に関する記事です。

駅前のにぎわいを取り戻し、雇用を生み出して人口減に歯止めをかけたい――。市はツタヤ図書館を活性化への起爆剤と捉える。近藤隆則市長は昨年2月に CCCから話を持ちかけられたとし、「街づくりの視点で提案を頂き、有名カフェも東京から一緒に来ることも魅力だった」と話す。

「ツタヤ図書館」地方になぜモテる? 5市が計画・検討

朝日新聞デジタル  2015年11月15日 ~

どうも、高梁市新総合計画 後期基本計画の策定前に「ツタヤ図書館」化の話は既定路線で、それに合わせた表現になっていたまでとのことですね。

ツタヤ図書館は駅前活性化につながるか?

過去の総合計画から図書館が消えたことにもあるとおり、市が図書館をそれほど重要視してこなかったことは明らかかと思います。
また備中高梁駅の駅前にある商店街も寂れてきており、駅前活性化も市としても大きな課題になっていることはよく分かります。駅前にスタバが出来たら地元の高校生や大学生はきっと嬉しいんだろうな、ふとそう思ってしまいました。

そんななか住民のニーズとして新図書館建設があがってきても行政側に図書館運営のノウハウが十分に蓄積していなかったため、計画段階で右往左往している間に「武雄市図書館」の例をみるなどして、駅前活性化の一助としてツタヤ図書館化を選んでしまったのではないでしょうか。

オープンから良くない話題の絶えない海老名市立中央図書館や住民投票でツタヤ図書館化を回避した小牧市立図書館の事例もあります。ここで一度落ち着いて計画を見直してみてはどうかとおもう、とどなのでした。

参考文献

  • 高梁市総合計画/高梁市総務部企画振興課/昭和60年(1985)12月
  • 高梁市総合計画〔第2次〕/高梁市総務部企画課/平成2年(1990)12月
  • 第4次高梁広域市町村圏計画/高梁広域事務組合/平成13年(2001)3月
  • 高梁地域(高梁市・有漢町・成羽町・川上町・備中町)
    新しいまちの建設計画策定のためのアンケート調査結果報告書
    /高梁地域合併協議会/平成15年(2003)9月
  • (新)高梁市まちづくり計画/高梁地域合併協議会/平成17年(2005)4月
  • 高梁市総合計画/高梁市/平成18年(2006)3月
  • 高梁市新総合計画 2010-2019/高梁市/平成22年(2010)3月
  • 高梁市新総合計画 後期基本計画 2015-2019/高梁市/平成27年(2015)3月
  • 「ツタヤ図書館」地方になぜモテる? 5市が計画・検討
    /朝日新聞デジタル/2015年11月15日

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